ウィリアム・リーガル氏 独占ロングインタビュー


取材日:2017年6月1日
来日していたウィリアム・リーガル氏のロングインタビューです。


 






タジリとのコンビ誕生秘話

-日本のWWEファンにとって、ウィリアム・リーガルとタジリのコンビは特別です。

私にとってもそうです。

-そもそも、どういういきさつでコンビを組むことになったのですか?

よく覚えています。2001年、カリフォルニアのアナハイムで番組収録中のお昼でした。ポール・ヘイマンから、私とタジリが組んでスキットをするアイデアを聞きました。

-おお、ポール・ヘイマン。

そう、ヘイマンの提案だったんです。最初にアイデアを聞いたときは「私とタジリ」という構図にぴんと来なかった。なにしろ、タジリの試合は見たことがあったけど、お芝居をしているのは見たことがなかったので。
当時、私が演じていたコミッショナーのキャラクターはすでに成功していましたし、無理にピンクパンサーの「クルーゾー警部とケイトー(加藤)」を真似たようなコメディを取り入れることで、かえってギミックが壊れることも恐れていました。タジリがあんなにコメディができるということを、まだ知らなかったですからね。

-なるほど。

とはいえ私は、どんなギミックを与えられても成功させることを信条にしていました。タジリとのコンビを成功させるためにはどんな方法があるだろうかと考え、ビンスにも相談しました。約1分間の会話でしたが、ビンスはこのコンビに期待するイメージを明確に語ってくれたんです。「まずはこんなふうにやってみてくれ。ウケなかったらまた別のを考えたらいい」と言われたので試してみることにしました。
タジリとの最初のスキット収録がスタートしました。私はコミッショナー室で机に向かっている。そこにタジリが入ってくる。タジリは慇懃なお茶汲み係のようにせかせかと動き回り、紅茶を入れたり、いろんな小芝居を始めました。
私はスキット収録が得意なほうで、どんなスキットでもワンテイクで撮れるとスタッフに評判だったんです。ところがこの時、タジリのあまりにふざけた仕草につられて、私は爆笑してしまったんです。おかげで最初のテイクがOKになるまでとても時間がかかってしまった。すぐに確信しました。「これは絶対にウケる」と。

 



-おおお…!

コメディのギミックは、いつも私のプロレスキャリアを助けてくれるんです。私は、トボけた味のあるイギリスの古いコメディ映画が大好きで、たくさん研究しました。アメリカのWWEファンの中で、イギリスの古い映画を知っている人は少ないでしょう? おかげで新鮮に感じてもらうことができました。
タジリとのコンビでは、彼がおかしなことをして、私は基本的にはそれに反応するだけでよかったんです。それだけなのに、トボけていて可笑しかった。ファンにもものすごくウケました。

-毎週、本当に可笑しかったです。ちなみに、笑って演技ができないときってどうするんですか?

コツがあります。起こり得る可笑しいことをすべて撮影前に頭の中で想像して、事前に笑っておくんです。そして本番では笑いをこらえて、撮影が終わったらまた笑う。この方法はけっこううまくいって、機材のトラブル以外ではほとんどワンテイクで撮っていました。やっぱりスキット撮影は、勢いのあるワンテイクが理想だと思うのです。



コミッショナーとお茶汲み係

-お二人は、プライベートでも仲が良かったのですか?

巡業中はよくタジリと車で移動しましたが、あの車中を撮影していたら番組より可笑しかったかもしれません。1週間に1000マイル、移動する間ずっと彼と一緒なわけです。タジリは本当に奇妙な男で……いい意味でですよ? 彼は「音楽が怖いから、自分が運転中は絶対音楽をかけないでくれ」と言いました。それなのに、どうしても自分が運転すると言って聞かない。しかも彼の運転技術は最悪でした。長時間、黙々と運転する彼と、たまに目を合わせては、「お前が憎い」などと罵り合ってました。ハハハハ! まったく何が可笑しかったのか。毎日そんなことを続けては「私はなぜこんな苦行を?」と自問自答してましたよ。

 



-はははは! 不思議な波長ですね。ところで、コミッショナーとお茶汲み係のギミックはそんなに長くは続きませんでした。半年にも満たないでしょうか。

終わりを決めたのもヘイマンです。私としては、このギミックを終えるのは早過ぎると感じました。ちょうど私とタジリで、ある映画のパロディをやるプランがあって面白くなりそうだと思っていたので。まだ続けたかったのですが、当時ヘイマンの発言力は大きかったんです。

-残念ですね。

でもね、今振り返るとあの時期に終わってよかったという気持ちもあるんです。ギミックは、長く続けすぎるとどうしてもマンネリになってしまう。コミッショナーとお茶汲み係のギミックは、まだ新鮮なうちに終えることができたからこそ、今こうして思い出しても、すべてのスキットが素晴らしく面白いものだったと自信を持って言えるんです。

-ううむ、なるほど。タジリ選手とはその後、2005年にもタッグを組みました。日本初のテレビショーでタッグ王座を獲った試合は、大変な盛り上がりでした

特別な試合には、特別な歓声が不可欠です。ただ盛り上がっているのとは違う、会場が一体となった歓声の「波」を体で感じることがあるのです。あの試合に勝利した瞬間に感じた「波」は本当に凄まじかった。一瞬「私は今どこにいるんだっけ…?」とわからなくなったくらいです。ちょうどその瞬間を収めた写真があるんですよ。私とタジリが腕を上げている写真なんですが、あれを見るといつもあのとき感じた歓声の「波」を鮮明に思い出せるんです。

 






プロレスにおけるコメディ

-プロレスにおいて、コメディの要素は重要だと思いますか?

重要なのはコメディ要素そのものではなく、「いつ」「なにを」「どこで」やるかです。理由もなくコメディをやっても意味がない。試合の中でコメディを上手に使いこなせる選手というのは非常に少ないんです。今のWWEでも1人か2人でしょうか。笑いに積極的な選手や挑戦している選手はたくさんいます。しかしそれがプロレスというライブエンターテインメントにおいて、ファンに対して有効に機能しているかが大事なんです。

-具体的にはどんなことでしょう?

サーカスを例にしましょう。サーカスを見に行く人は「見たことがないもの」や「すごい技」を見に行きますよね? でもその興奮の裏には「もしかしたら演者がライオンに食べられてしまうかもしれない」という緊張感も潜んでいるのです。
これはプロレスの本質に似ています。コメディの要素はショーにおいて有効なエッセンスですが、プロレスの全てがコミカルなお芝居だったらきっと面白くないでしょう。すごい技を習得したすごい筋肉の選手が見せる緊張感のある試合ありきです。コメディ要素はそれを引き立てることができるものです。
だから、一流のコメディができるプロレスラーは、同時にレスリング技術も一流なはずです。そうでなければ、ファンはそもそもその選手を「コメディができる選手」として認識していないと思いますよ。「コメディしかできない退屈な選手」と認識しているはずですから。

 



-ああ…!すごく納得です。ちなみにWWEの歴史においてコメディの才能が飛び抜けていた選手は誰ですか?

まず、カート・アングルですね。彼のコメディは素晴らしかった。コメディの才能のひとつは「自信」なんです。「自分が面白いってことをアピールしなくては」と考えている選手は、シンプルに「自分は面白い」と自信を持っている選手に敵いません。ファンはその差をすぐに見抜きます。カートは完全に後者でした。
次に、サンティーノ・マレラ。笑いに爆発力がありました。彼の面白さというのは特殊で、ショーの雰囲気や観客の気質によってはうまく機能しないこともあったんです。でもツボにハマったときはすごかった。会場から大爆笑を引き出すことができました。
あとは、もちろんロックですね。でも、繰り返しになりますが、ロックにしろDXにしろ高いレスリング技術があってこそコメディが活きたのだと思いますよ。

-それはリーガル氏ご自身にも当てはまりますね。

ハハハ、ありがとう。とくに私は、ハウスショーでふざけるのが大好きでした。会場の雰囲気をつくる役割が必要な場合があって、そんなときに観客から感情を引き出すために、ちょっとふざけることが許されている立場だったんです。観客をプロモ(マイクアピール)で笑わせておいて、次の発言で一転ブーイングをもらうのなんて大得意で、その技術に自信がありました。子供の頃の夢は、プロレスラーかピエロだったんです。人を楽しませるのが心から好きで、その二つの仕事以外まったく思いつかなかった。
一番素晴らしいプロレスラーとは、観客を笑わせて、叫ばせて、試合で興奮させることができる選手だと思います。そういう選手をお手本にしてきましたし、自分もそうであろうとやってきました。
ああ、そういえば、新日本プロレスに出場していたときだけは特殊でしたね。当時の日本のプロレスは真剣勝負の空気をとても大事にしていたのでコメディは封印していました。最近は日本にもコメディが上手なレスラーがたくさんいますよね。

 






NXTブランドの人気

-リーガル氏は現在NXTのゼネラルマネージャーです。ズバリ、NXTはなぜ人気なのでしょう?

RAWは「娯楽番組」、スマックダウンは「娯楽を含むレスリング番組」、NXTは「レスリング番組」。これが人気の理由です。WWEは業界最大手の団体ですが、「最高」であると同時に「最適」を心がけています。マニアックなプロレスファンの、より技術寄りで骨太なレスリング番組への需要を最適な形で提供しているのがNXTです。技術寄りのファンなら育成選手じゃなく高い技術の試合を見たいかというと、必ずしもそうじゃない。技術に関心があるからこそ、若い選手が技術的に成長していくのを見るのも好きなんですよ。だから喜んで新しいレスラーの「旅路」に付き合う。そのことでより「自分の番組」という思いも強くなるんです。

-「旅路」の先には昇格もあります。NXTという団体は、常にトップ選手が昇格して離脱してしまうという宿命も持っていますよね。

そうですね。そこは計画すべきことです。RAW・スマックダウン・NXTは競い合っているわけではないので「RAWに選手を奪われた」というふうには考えません。すべて同じ会社でやっていることですから、WWE全体にとって良いやり方を計画することが大事なのです。
NXTのトップ選手はRAWやスマックダウンに行ってしまいますが、逆にRAWやスマックダウンの番組内で宣伝してくれなかったらNXTの存在自体も知ってもらえないわけです。NXTには熱狂的なファンもいますが、それでも普段のショーはせいぜい1000~1500人規模の興行ですから。RAWとスマックダウンという人気番組の宣伝効果によるところは大きいのです。
それにビンスは、けっこう気を遣ってNXTに選手を残してくれているんです。もし私が彼の立場だったら、いい選手は片っ端からRAWに連れて行ってしまうと思いますよ。ハハハハ!

 



-共存関係ですね。たしかに昇格していく選手がいる一方で、NXTで長く活躍する人気選手もいます。

NXTの役割が変化してきたことも理由でしょう。当初はあくまで「RAWとスマックダウンに昇格するための足掛かり」でしたが、最近はNXT自体が人気ブランドとして認められています。選手のキャラクターやレスリングスタイルによっては、NXTで長く活躍するほうが適していると判断することもあるのです。
あとは、選手個々の事情をよく考慮することも大事です。例えば、中邑真輔です。彼がNXTにいた間、大勢の関係者やファンから「早く中邑を昇格させて!」と言われました。もちろん彼の実力は疑いようもありませんが、中邑は日本から引っ越して来て、全く新しい環境での生活が始まるわけです。もし、すぐにRAWやスマックダウンに昇格してしまったら、1週間のうち5日は巡業で家に帰れません。海外ツアーなら2週間は帰れない。新日本プロレスの「2週間巡業して2週間休暇」というリズムとは全く違います。なので、まずはフロリダに拠点を置くNXTでスタートして、新しい環境に慣れる時間を設けることは、中邑にとって良いことだと判断したのです。



育成組織としてのNXT

-NXTは育成組織としても大成功していますね。

全てが順風満帆というわけではないですけどね。選手が昇格するのはいいのですが、優秀な制作スタッフがRAWやスマックダウンに昇格してしまうこともあります。これはけっこう深刻でした。たとえば、優秀なカメラマンが昇格してしまったら、新人カメラマンにやり方を一から教えなければなりません。
あとは、選手のケガも難しい問題です。結局、選手の昇格のように計画されていることはNXTにとってそれほど大きな問題ではなく、イレギュラーこそがいちばん頭を悩ませることなんです。その意味では、サモア・ジョーや中邑のようにケガをせず、毎週確実に良い仕事をしてくれる選手というのは、組織にとって本当に頼もしい存在ですね。

-実感のこもった言葉です。聞いてみたかったのですが、育成選手が昇格するために一番必要なことは「レスリング技術」「プロモ技術」「キャラクター作り」のうちどれでしょう?

まったく同じ質問をよく聞かれます。育成選手からも、他団体の選手からも聞かれます。答えはいつも「全てを、常に」です。なぜなら、どれも「出来たから終わり」というものではないからです。
例えば、こんなことがありました。ある日、パフォーマンスセンターを訪れてプロモの指導をしていたら、すごく面白いプロモをやった育成選手がいました。ところが1か月後にまたやらせたら、まったく同じプロモをやったんです。「どうして1か月前と同じプロモをやるんだ?」と叱ったら、「褒められた自信作なので」と。そのプロモは良いが、それだけを得意になってやっていても成長したとは言えません。むしろ彼はスキルを修得したと勘違いしてプロモの練習を終わりにしてしまったんです。
そもそもレスラーは、必要なスキルを修得することが目的ではありません。重要なのは「観客と一体になること」なんです。スキルはそのための手段でしかありません。

 



-とても腑に落ちます。

「今週は別のプロモをやってくれ」と言われたらどうするつもりなんでしょう? 「違うことをやってくれ」「先週とは変えてくれ」なんてことは、一流のトップ選手だって毎週言われていることなんです。だから、この業界でやっていくためには「全てを、常に」磨き続ける必要があります。
マイケル・ヘイズが言いました。「プロレスラーとは、職業ではなく人生だ」と。最高の瞬間を作り上げるために、永遠に終わらない理想を追求し続けるのです。

-厳しい世界です。さて、伺いたいことは尽きないのですが、時間なので最後の質問です。成功する選手は、パフォーマンスセンターに入った初日から他の選手と違いますか?

そういう選手も稀にいます。しかし、たくさんの選手たちを見てきた長年の経験から言えば、元から才能がある人より努力する人が成功します。言い換えれば「努力する才能がある人」です。なぜなら、そういう人は満足しないからです。いくらでも自分を良くしようとして努力をやめません。ある程度技術が上達したとき、レベルアップした自分にホッとしてしまう選手はとても多いのです。レベルアップしてしばらくは活躍できるかもしれませんが、そこに安住してしまったらファンは必ず飽きます。いくら上達しても努力をやめない選手だけが、ファンに変わらず支持されるのです。
パフォーマンスセンターに入ってくる育成選手の中には、「WWEスーパースターになるための手順マニュアル」があると思っている人もいるようです。そんなものはありません。成功への道は、誰もがみんな違うからです。