フィン・ベイラー選手 独占インタビュー


取材日:2017年6月8日
来日していたフィン・ベイラー選手の独占インタビューです。


 



-ベイラー選手がケガから復帰して本当に嬉しいです。

ありがとう。俺も戻ってこられて嬉しいよ。

-肩はもうすっかり良いのですか? それとも少しは痛みがある中で試合をしているのですか?

いい質問だ。あのケガは本当にショックだったし、シリアスだった。ひと口に肩と言っても、内部で4箇所が負傷していたんだ。最初の数週間は不安しかなかった。「もう以前のような試合はできないんじゃないか」「一生引きずる大怪我なんじゃないか」ってね。恐ろしかった。でも、手術してリハビリするうちに、どんどん良くなっていくのを感じられた。WWEの復帰プログラムはうまく出来ているなと、身をもって実感したよ。
最初の質問に答えよう。ケガは完全に治った。痛みも無い。休めた分、ケガする前よりも調子がいいくらいだよ。

-よかったです! 先週のエクストリーム・ルールズの5WAY戦も素晴らしい試合でした。

じつは、5WAY戦は、長いキャリアでも一度もやったことがなかった。考えることが多くて大変な試合形式だ。次に起きることが予想しづらいんだ。経験が無いものは仕方ないから、深く考えるよりも感覚を研ぎ澄まして瞬間瞬間で試合をしていた。ベストは尽くしたけど、結果がね・・・。まあ、サモア・ジョーは本当に一流のレスラーだから、負けるのは恥じゃないさ。レスナー戦の健闘を祈っている。

 



-気になったことがあります。王座挑戦権を賭けた大事な試合だったわけですが、デーモン・キングは現れませんでした。なぜでしょう?

とくに理由は無いよ。デーモン・キングは本当に必要な時にしか現れない。それに、必ずしも俺自身がデーモン・キングを選択するわけじゃないんだ。デーモン・キングの方が俺の中に入りたがる時もある。今回は、単純にそういう試合じゃなかったんだ。

-じつは、これが今日いちばん聞きたいことだったのです。「デーモン・キング」とは、そもそも何なのでしょう? ミック・フォーリーの多重人格ともグレート・ムタとも違います。

デーモン・キングは「精神状態」なんだ。普段は深いところに隠れているんだけど、俺の中で何かが臨界点を超えたときに現れる暗い精神状態だ。先週の5WAY戦は自分自身として、「フィン・ベイラー」として経験すべき試合だと思った。そうじゃない試合、つまり俺の中の暗い面を引き出さなきゃいけない試合は今後も必ずあると思う。でも、自分のアイデンティティを正確に理解している人なんてなかなかいないだろう? だから、その時のためには、普段のフィン・ベイラーで闘うことも重要なんだ。

-興味深いです。その2つの精神状態を使い分けることは、昔からベイラー選手の頭にあったものなんですか?

少なくとも一瞬で生まれたものじゃないな。長い間、頭の中にあった複数の考え方が融合したものだ。もちろん、他のいろんなものからインスピレーションは受けているし、それを取り入れている。でも、考え抜いて故意に生み出したわけではないね。年月を経て自然に今の形に進化してきたんだと思う。

 



-しかも、デーモン・キングは毎回種類が違います。

そう、だって対戦相手も状況も場所も、毎回違うからね。その時の自分の「精神状態」も毎回変わる。そして、デーモン・キングはアートでもあるんだ。その瞬間の精神や状況を言葉が無くても表せるもので、計画や予想ができないものだよ。でも、いったん現れたら、いつだって観客に衝撃を与える。

-ちなみに、今までのデーモン・キングの中で思い入れが強いのはどれですか?

どれにも別々の理由で強い思い入れがあるけど、印象深いのはロンドン大会での「切り裂きジャック」だな。いろいろな意味で俺にとって特別だった。あとは「テイクオーバー:ジ・エンド」。サモア・ジョーとのケージマッチのときだね。あのときのペイントには、黒と白しか使わなかった。単純なデザインだけど、ストーリーのテーマである「善と悪」を象徴していて、俺にとって精神の均衡がとれた姿だったと思っている。

-デーモン・キングは姿だけじゃなく動きも独特です。地を這う動きは不気味な美しさがあり、両手を上げる動作では観客席との一体感を感じます。

じつは、両手を上げる動きは元々、「ここで照明をつけて」というスタッフへの合図だったんだ。ハハハハ。

 



-えっ、そうなんですか?

本当だよ。想定していた以上に印象的な演出になったよね。おかげで観客も一緒にやってくれるようになって、それが定着したから必ずやることにしたんだ。

-今では、あれが無いベイラー選手の入場は考えられません。

プロレスで一番大事なことは観客とつながり、一体になることだ。だから、あのシーンによって観客とインタラクションできていること自体は素晴らしいことだと思うよ。でも入場中は、とにかく音楽をよく聴き、動作のタイミングを計ることに集中している。観客と一緒にその空気を楽しみたいけど、その余裕はないんだ。

-おお、その点も予想外です。観客とのシンクロを楽しむような感覚だと思っていました。

一体感があると言ってもらえるのは嬉しいけど、なにしろ自分の入場だけは客席から見ることができないからね。いつも「観客席に座って自分の入場を見てみたい」と思うんだ。そりゃあ、後からビデオで見ることはできるけど、やっぱりその場の生の空気感っていうのは、映像では伝わらないものだ。観客がどう感じているか想像する必要がある。

-ストイックに自分を客観視しているんですね。

俺のキャリアへの考え方そのものでもある。「今日は調子が良かったな」なんて感想だけで終わりにしたくない。目的は最高のパフォーマーになることだ。そのためには冷静に自分を顧みて、常に「もっと上達するには何をするべきか」って自分に問いかけなくちゃいけない。ぜったい現在の居場所に満足しちゃいけない。どの瞬間が素晴らしかったかは、歳を取って引退してからゆっくり振り返るよ。

 



-ううむ…すごい信念を感じます。

その意味じゃケガをしたことだって、むしろ成長のきっかけになったと思っている。新しい状況に順応する力が身についたし、自分の身体をより深く理解することもできた。試合から離れたことで、自分を見つめ直す時間もあったんだ。ケガを知らなかった時の自分より、ずっとバランスがとれたパフォーマーに成長できたと思っている。

-前向きな姿勢に頭が下がります。実際、RAWに復帰して以来大活躍ですが、NXT時代と変わったことってありますか?

もちろんショーに臨む意識は昔より進歩していると思うけど、根本的なところでは変わらないかな。ひとつ大きく違うのは、RAWは予定が変更されることが圧倒的に多い。しかも直前で急に変わる。毎週、何が来てもそれを受け止める覚悟が必要だ。

 



-現在のRAWやスマックダウンは、ベイラー選手を含めてNXTの黄金時代を作った選手たちが、番組の中心的存在になっていますね。

そうだね。ただ、俺たちがNXTの黄金時代だとは思っていないんだ。むしろ今のNXTは、俺たちがいたときよりもどんどん進化している。ボビー・ルードやサニティ、そして個人的に今後大きな役割を果たすと思っているロデリック・ストロングもいる。彼らの才能と向上心は、RAWやスマックダウンのスーパースターにだって決して劣らない。彼らが今後NXTをどんなふうに進化させていくのかすごく楽しみだ。

-ちなみに、サミ・ゼインやケビン・オーエンズ、ネヴィルなどNXT出身者に対して「同志」という意識はありますか?

ああ、それはあるね。俺自身もそうだし、NXT出身の選手はみんなお互いに「同志」という意識が強いよ。その3人はもちろん、エンツォとキャス、サーシャ、ベイリー、ベッキー、シャーロット、アメリカン・アルファ、みんなそうだ。NXTで過ごした時間は特別で、きっと永遠にお互いに対して絆を感じていると思う。

-なるほど。たとえば、サミ・ゼイン選手は、ベイラー選手にとってどんな存在ですか?

サミについて話し始めたらきりがないな・・・。ハハハ。この取材の時間ってまだ大丈夫?
まず、彼くらい手振りが激しい奴に会ったことがない。話すとき、ものすごく手を使うんだ! ハハハハ! そして、俺が人生で出会った中で、いちばん多様性がある人物もサミだ。彼は他人の真似をしない。前例や既成概念にとらわれない。いろんな引き出しを持っている。その意味じゃ「アーティスト」だと思う。彼自身は自分のことをアーティストとは言わないだろうけどね。
何よりも、俺にとって本当にいい友人だ。彼がスマックダウンに移籍した今でも仲がいいし、いつも連絡を取り合ってる。リング内でのサミの技術は本当に素晴らしいし、その何倍もリング外での彼の人間性を尊敬している。

 



-素晴らしいです。では、ケビン・オーエンズ選手はどうでしょう?

ケビンにも、同じくらい友情を感じているよ。なにしろお互い国外の出身で、世界を転々として、同時期にNXTに入ったからね。パフォーマンスセンターやWWEでのやり方に慣れる上で、助け合っていたことはすごく多いんだ。ケビンはサミとは正反対の性格だけど、テレビじゃ伝わらない部分も多い。彼はとにかく素直なんだ。時としてその素直さが人を傷つけることもある。でも俺は、ケビンの素直さが好きだし尊敬しているよ。

-まだまだお話を伺いたいのですが時間切れです。良い日本滞在になることを願っています!

ありがとう。俺のプロレスキャリアの大部分はこの日本にある。こうして日本に来ると、懐かしい感情が湧き上がってくるよ。でも、過去ばかり振り返らずに前進し続けないとね。過去を振り返ったり懐かしむのは、簡単なことだと思うんだ。だから自分に厳しく、未来に向かって突き進むつもりだ。
ただ・・・、どうしても振り返ってしまうものもある。日本の美味しいお寿司とかね!

 



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